ACT:86/また、すっぽんぽんかいっっ!
ばさり。今まで夕美が立っていた場所に、彼女が身につけていたもの全部が抜け殻のように“落ち”た。トレードマークのヘアバンド代わりのロングリボンも、である。
「あっ」という、男どもの声が出たのはしばらく経ってからだった。それほど唐突だった。
「ゆ、ゆ、ゆ夕美さんは!?」
「…ほんまに消えよった…いや、これがテレポートか…理屈では解ってたつもりでもやっぱりたまげるなぁ」
「無事…!? 無事なんですか!?」「まて、さわるな!」

ばさり。今まで夕美が立っていた場所に、彼女が身につけていたもの全部が抜け殻のように“落ち”た。トレードマークのヘアバンド代わりのロングリボンも、である。
「あっ」という、男どもの声が出たのはしばらく経ってからだった。それほど唐突だった。
「ゆ、ゆ、ゆ夕美さんは!?」
「…ほんまに消えよった…いや、これがテレポートか…理屈では解ってたつもりでもやっぱりたまげるなぁ」
「無事…!? 無事なんですか!?」「まて、さわるな!」


「夕美ちゃん。この際だ。テレポート…瞬間移動を試してみるかい」
ほづみの唐突な提案に、夕美や亜郎はもちろんさすがに耕介もこれには面を食らった。
「ほづみ君、なんぼなんでもそら無茶とちゃうか」
「ほ、ほんまや。瞬間⋯移動やと!? あっそや、そやかてほづみ君、あんた前に、瞬間移動は危険やて言うてなかったか?」
「確かに。でも、あの時はまだ夕美ちゃんはまったくのサイエナジックの初心者だったからね」
「い、今かて初心者やわ!」
誰しも一度くらいは夜の学校に足を踏み入れたことがあるだろう。
クラブ活動や補習や忘れ物や、学園祭の準備とか、理由はともかくも。
昼間、騒々しい活気に満ちているからか、その分対照的にひと気のない建物のなんと寂しげな事か。
大学などと違って、もともと夜間の使用を想定していない設計思想だから、照明というより街灯のようなションボリした電灯だし、それとても最小限の本数しか使われていない。いわば防犯対策のために仕方なく付けているといった体裁だ。
「夕美さん、もう僕はひとりでも行きます。」
「あっっ、あほ、あかんて」と夕美。「こんなことしてる場合とちゃうがな。…ええい、しゃあない」と段ボールの中からビニール袋に入ったワンセットを適当に掴み出すと、着替えるために耕介の横をすり抜けるようにして家の奥へ飛び込んだ。
「はっは!なんやかんや言うても自分からコスを持って行きよった♪さすが俺の娘や」
「いや、違うと思いますよ」と、ほづみ。

「ああ、泥棒か」
「なっっっっ…」拍子抜けしたような耕介の反応にはさすがに亜郎もムッとした。
「お、お父さんっっ? “ああ、どろぼーか” は、ないでしょうっっ、うちの部室、どんだけカネ目のものがあると思うんです!? いや、そりゃ須藤家の研究室に比べたら所詮は学生の」
「おお、なるほど。そらすまんかった。けどそんな事よりお前、いまドサクサにまた “お父さん” 言うたな!」
「なんでそこにひっかかるんですかっ!?」
「あっ。もしかして」突然、ほづみが顔を上げた。「泥棒の目的は、学校というよりメディア部そのものじゃないのか?」

「ちょっとあんたら。何くつろいでんのん!そんなとこで喋っとるくらいやったら、食器とかの片付け手伝うてぇや。」
「あ。」ほづみと亜郎がそれぞれ「ごめん」「すみません」と家の方へ駆け寄るさまは、夕暮れ時に母親に叱られて呼び戻される幼い兄弟のようだ。
「亜郎君、言うとくけど明日もちゃんと学校には行くねんで」
「え」
「当たり前やんか。登校拒否なんかさせへんで。あたしは引きこもり用の天の岩戸を提供するつもりはあらへんし」
「でも…」
「だいたい、ほづみ君もなにしょーもない事言うてんのん。ここはもぉ悪いヤツラにはとうにバレてんのやろ?来よった連中追い返したかて、時間稼ぎにはなっても、遅かれ早かれ何かまた来寄るに決まっとるワ。せやろ?」
「いやしかし」