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「陸上自衛軍、特殊装備特務開発課の八坂茜一尉だ」
本来は救出を成功させて颯爽と大衆の前に名乗って出るデビューのはずが、えらくブザマなカタチになってしまったな、とアカネは心の中で自嘲した。
「り、陸自!? 軍人さんか…」あやうく、“軍人さんかいな”、と口走るところだった。

「……なんだと思ったのだ」
「いやその、単に怪しい人だと」
「その派手な姿でそれを私に言うのか」
「おっ、おたがいさまでしょうが」

「く」
───薬、といいかけて自分の声の大きさに気づいた夕美は、あわてて小声で言い直す。(薬が切れるの、いつや、ほづみ君)
〈ザー・もうとっくに切れていても不思議じゃない。誤差を見込んでも数分あるかどうか〉
「げっっ」
これまでの超能力はもちろんだが、今現在こんな姿になったのも薬のせいだったとしたら、こんな姿で居られるのも薬が効いている間だけ、ということになるのではないか。
そして夕美はというと。
迷っていた。
とんでもない状況だが、恐怖はない。なんとなくだが、サイコバリアの出力がコントロールできるようになってきた。防ぐ物体の大きさに合わせて調整できている気がする。人の大きさほどもある巨大な鋼材でも少し力を加えるだけで充分対処できる。
それどころか、家一軒を一瞬で押し潰せる巨大な柱でさえ問題ない。
これならビルひとつといえども楽勝───たぶん。
だが出力に比例して身につけているものの消える速度が速まる。このままバリアを使い続けたら素っ裸になるのは時間の問題だろう。

光の球の中では、アカネが眼を丸くしていた。いや、丸くするしかなかった。
“おっちゃん”は幸福なことに終始、うつ伏せで気を失っている。
まだ十代でありながらさまざまな訓練、それも並みの男ならネを上げてしまうほどの厳しい訓練を受け続け、さらには科学の最先端技術を駆使して作られた特殊装備を使いこなせるだけの知識を積むための学習に明け暮れた彼女でも、いま目の前で繰り広げられている光景はおよそ理解しがたいものだった。

基部を損なったクレーンは、本当ならすぐに倒れてしまったはずだった。
だが自ら建築中だったビルの鉄骨の一本にたまたまひっかかったのである。
たった一本の鉄骨が巨大なクレーンを支え得たのは、全荷重が懸からないで済む傾きかけの状態だったためだが、それもギリギリのバランスを保っていたに過ぎない。
だから一両日もの間、なんとか寄りかかって辛うじて立っていられたのである。
