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2011年3月 9日 (水)

ACT:81/揺れます。揺れます。いろいろと。

Scienagic080b

「ちょっとあんたら。何くつろいでんのん!そんなとこで喋っとるくらいやったら、食器とかの片付け手伝うてぇや。」

「あ。」ほづみと亜郎がそれぞれ「ごめん」「すみません」と家の方へ駆け寄るさまは、夕暮れ時に母親に叱られて呼び戻される幼い兄弟のようだ。
「亜郎君、言うとくけど明日もちゃんと学校には行くねんで」
「え」
「当たり前やんか。登校拒否なんかさせへんで。あたしは引きこもり用の天の岩戸を提供するつもりはあらへんし」
「でも…」
「だいたい、ほづみ君もなにしょーもない事言うてんのん。ここはもぉ悪いヤツラにはとうにバレてんのやろ?来よった連中追い返したかて、時間稼ぎにはなっても、遅かれ早かれ何かまた来寄るに決まっとるワ。せやろ?」

「いやしかし」

「そもそも、あたしがあんな恥ずかしいカッコで人助けしにいったんも、悪い連中にはとうにここがばれてて、ヘタに隠すくらいやったら堂々と出てまえ…て、お父ちゃんとほづみ君が言うからそないしたんやんか。」
「でもAP(アーマードプロテクター)の登場なんて想定外だよ」
「こっちかて知らんワ、あんだけ人に恥かかしといて。せやから嫌や言うたんや。だいたいなんやあのコスプレは………」
 と言いかけるとまた恥ずかしさが甦ってきて言葉に詰まったが、その間が呼び水になって、ほづみ、特に亜郎があの時の光景を思い出しそうな気がして、急いで夕美は言葉を継いだ。
「そ、それに。かえって亜郎君も堂々としてたほうが早よ要らん疑いが晴れるんとちゃうのん?」

 それもそうかな、とほづみは思った。亜郎もとりあえずはほづみを含む須藤家と運命共同体となることを覚悟したようだ。───もっとも、それがどういう結果になるかはほづみにも判らない。

「…まあ昼間は、麻樹は自分が亜郎君をかくまうやの、鈴は鈴で面白がって火に油を注ぐわでヤイヤイうるさかったから、けっきょくは勢いであたしが連れて来てもたけどさあ………あ?」

 それは最初、気配の変化という形で感じられた。

 身体のどこか奥の方から立ちのぼってくる不安感。それでキュッと心臓が締め付けられるような、気持ち悪くて嫌な気分だ。
 予感、と言うべきかも知れないが、時間の長さにすれば瞬間と呼んでもいいような間を置いて、足元が突然、ゆらり、と動いた。

「うわお」

 地震だ。立っていられないほどではないが、肝を冷やさせるには充分なインパクトがあった。
 地面の揺れから時をずらすようにして周りの樹々がばさばさと波打つ。その音とは別に、足元からもごうごうと何かが響いてくる気さえする。

「さ、最近ちょっと、多い、ですよね」意外に冷静な亜郎。
(この地震!まさか)逆に緊張をみなぎらせるほづみ。
 そして夕美はと言うと。
「ええと………」

 両手を拡げてバランスを取りつつ家を振り返って、ギシギシ音を立てながらまだ揺れの残る柱越しに家の奥に目をやった。
 灯りは消えてない。
 が、半壊状態から再建中の家を長辺方向に中を覗き込むと、驚いたことにまるでカーブに差し掛かった列車のようにゆらゆらとローリングしている。だが揺れながらも、これ以上崩れたりする様子はない。
 さすが、和洋中華どんな家でも建てて見せると豪語するスーパー棟梁の手掛けた家は、夕美の暴発したサイエナジックでも全壊しなかっただけのことはあるなぁ…と感心しているうちに、ようやく揺れが納まった。とはいえ、まだ残った勢いで柱や梁がこすれてミシミシと嫌な音を出している。

「あ」
「どうしたんですか」
「お父ちゃん、中やったっけ…?」
「た…たいへんだ…!」顔色を変えたのは亜郎だけだった。

「まあ家も無事…というか、変化もないようだし先生のことだから大丈夫だと思うけど」
「な、何を呑気な!ほづみさんって、クールっていうか、時々非情なところありますよね!!」
「あ〜!やっぱり?」亜郎の顔を指差して夕美は時ならずはしゃいだ。「そやろ、な?な?そう思うやろ〜?あは。…せやねんけど、まあこの件に関しては間違ごうてへんと思うわ」
「ゆゆゆ夕美さんまで!!」

「───こ、こらああああ!」亜郎の言葉尻を引き継ぐように怒鳴りながら、耕介が転けつまろびつ家から出てきた。
「ほらな?」と夕美。
「先生、今の地震なんですけど、もしかして───」

「こっ、こらこらこら!ちょ〜っと待たんかい、ほづみ君!! そ、その前に“おケガありませんか”とか“無事で良かった”とかのアッタカイ言葉はないんかい!?」

「あ…す、すみません」
 いつになくうろたえ気味のほづみに、おや、と耕介は思ったが、とっさに気づかぬフリをする方がいいと判断して喜劇を続けた。
「───ゆ、夕美もや。なんやねんお前ら。よその子の亜郎の方がよっぽど情があるやないか!?」
「よ、よその子って…」

「亜郎、オマエは好きなだけおったらええからな。そや、いっそオマエ、うちの子になるか」
「ゑっ♪」
 もちろん亜郎の脳裏に一瞬浮かんだのは養子縁組ではなく、《夕美のおムコさん》という入籍手段だが。
「いや、こんな薄情な夕美なんか娘とちゃう。追い出したるわ」
「ゑゑ〜!?」───亜郎の夢はわずか数秒で儚く消えた。いくら耕介との間にはヲタク同士の連帯感があっても、夕美抜きでこんな舅(しゅうと)と家族になどありえない。

「なんやとぉ。追い出せるもんやったらやってみぃ。あたしが家を出て、果たしてどっちが困るか根競べしてみるか?」
「うっ」
 親でありながら、無条件に自分の生殺与奪権を持っているのは娘である。そんな根源的な力の格差の前では、娘の支配下から自立したいという耕介の無謀な野望も瞬間についえた。

「先生、今の地震…」とほづみ。いつになく落ちつきがない。
「え?ああ、いや、これは違うやろぉ〜!? 大丈夫や。心配せんでも」
「ちょっと。なんのこと」夕美もいつになく落ち着きのないほづみの様子に感づく。
「なーんでもない、なんでもない」
「なんでもないことあるかい!グラッと揺れたくらいで、そんなウロ来たほづみ君なんか見たことない。それにさっきのオトコ同士とやらの話も怪しさ満開や。中、入り。ゆっくり話を聴かせてもらおうやないか!!」

 突然、けたたましい歌が流れた。亜郎が新しく買った携帯電話の着信メロディーである。
「おお!“スクランブル・ユーミン”の主題歌やないか♪」と、耕介にしてみれば渡りに船。
「ええ、はは、すみません。ちょっと…」と、話の腰を折られて不機嫌さを増してゆく夕美に会釈してあたふたと携帯を取り出す亜郎。

「あ。平賀先輩ですよ───。もしもし?───はい…」

 奇妙なもので、会話の最中に当事者の誰かに電話がかかると、他の者はたいてい一斉に会話をぴたりとその時点で停める“待機モード”になるが、アレはどういう現象なのだろう?
 電話する者は勝手に会話から離脱したのだから、残ったメンツでそのまま会話を続けても良さそうなものだが、まるでポーズボタンでも押したかのように、面白いほど律儀に姿勢までそのままで待っている事が多い。

 そうしてまで待つ方は、電話の会話内容を聞かないよう、聞き耳を立てないように気を遣いつつも、つい聞くともなしに聞こえてしまうので、なんとも居心地の悪い緊張をひたすら我慢するはめになるのだ。ましてや、

「え!えーっっっっ。じゃ、じゃあ、一体……うん。…えええええっ!?」

 こんな反応をされたのでは気にならない方がおかしい。
 その他に漏れ聞こえてくる亜郎の返答具合から、何か特ダネ───といえば聞こえはいいが、要するに新聞ネタになるような事件が起こったらしいことは察しがついた。
(今の地震で?まさかな、今のは普通の地べたがズレて起こる型の)と、耕介は耕介なりに考えを巡らせていた。

「…なんかあったん?先輩さんはなんやて?」亜郎が携帯電話を閉じる間ももどかしげに夕美が訊ねた。

「う、うちの学校に泥棒が入ったんだそうです」
「「「は?」」」

《ACT:82へ続く》

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