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2011年6月13日 (月)

ACT:82/亜郎くん、めっちゃ焦る。

「ああ、泥棒か」
「なっっっっ…」拍子抜けしたような耕介の反応にはさすがに亜郎もムッとした。
「お、お父さんっっ? “ああ、どろぼーか” は、ないでしょうっっ、うちの部室、どんだけカネ目のものがあると思うんです!? いや、そりゃ須藤家の研究室に比べたら所詮は学生の」
「おお、なるほど。そらすまんかった。けどそんな事よりお前、いまドサクサにまた “お父さん” 言うたな!」
「なんでそこにひっかかるんですかっ!?」

「あっ。もしかして」突然、ほづみが顔を上げた。「泥棒の目的は、学校というよりメディア部そのものじゃないのか?」

「あ」
 そのひと言は、すぐ亜郎の腑にも落ちた。「まさか……目当てが機材じゃなくて…! 忍び込んで来たのも泥棒じゃなくて…!夕美さんが写ってる動画が目的じゃないか…と?」
 
「は?」夕美が目を丸くする。「いまあんた、何言うた」

「ははは…そんな動画なんか、あるわけが…」と問う夕美の視線をツイ、と亜郎がそらす。「うぇえええっ、あ、あるんか!?」

 反射的にホールドアップ状態になる亜郎。「い、い、いや、クレーン事件の時のじゃないですよ、もちろん。」
 にらみつける夕美の視線がどんどん敵意を増し、見る見る亜郎の顔色が青から赤に、赤から青に、くるくると変わる。「だあ、だってあの時は僕、徒手空拳だったじゃないですか。憶えてるでしょ。だ、だからそれ以前に撮ったデータです、普通の学校生活での夕美さんの動画しか持ってませんので」
「…しか、って、それこそ、完全なストーカーやんか!」
「ストっっ!? ごごごごごごごご誤解ですよ、あれを撮った時は、須藤研究所の怪しさを取材するための資料として」
 今度は耕介がゲンコツに息を吹き掛けながら「ほんならやっぱり初めてここへ来よった時は、家の事を探りに来やがったんやな!」と迫る。

「───あっっっ」亜郎、語るに墜ちる。

「ええと。取り込み中、気になることがあるんだけど。」とほづみ。「いくら君の先輩が副部長でも、一介の生徒に警察や学校からこんな時間にわざわざ事件発生の連絡が入るとは思えない。普通は次の朝登校した時、教師から聞かされてはじめて驚くのがパターンだよね?」

「あ、そうだった!! いまのは、リアルタイム、つまり現在進行形の話なんですよ。」
「は?」
「だって、うちの部室に仕掛けてあるウェブカメラが侵入者に反応して先輩のパソコンに警報を伝えて来たんですから。ドロボーが入ってるのは今、まさに今なんです。」

「なな、なにぃいいいいいいい!? アホやなおまえ、それを早よ言わんか!!」
「もちろん今頃は先輩が警察に通報してるでしょうけど、犯人が逃げる前に間に合うかどうか」
「けど、学校にも警備の人、いてはるでしょうが」
「いや、あかんやろ」と耕介。「…フツーのドロボーさんやったらそれでええやろけどな?しかし、このあいだウチに来よったアメリカ国籍でアンニョンハセヨなお客さんみたいなんやったら、警備員の方が返り討ちに遭う。あいつらは目的を果たすためやったら、最初から殺す気まんまんや。下手したら警官でもやられてまうんとちゃうか」

「うっっっ」夕美の脳裏に例の侵入者四人組の姿が甦る。たしかに、あんな連中が相手では臨戦態勢の軍人ででもなければ太刀打ちできまい。

「す、すみません、そういう事で、今から学校へ行ってきます」

 そう言った亜郎の言葉の意味がすぐには飲み込めなかった夕美たちは一瞬、凝固した。「えええええ?亜郎くん、今のお父ちゃんの話聞いてへんかったんか!? 何を言い出すねん、ピストルなんかで撃たれたら、出るのはハナヂどころでは済まへんねんで」
「だって大事なお宝映像が。機材が。」

「この、どあほがぁー!」怒鳴ったのは耕介だった。

 耕介が噛み付かんばかりに怒鳴り、亜郎もその怒気の勢いに押されてわっ、とたまげた。───が、しかし耕介の場合は普段がおちゃらけてるだけに、どこまで本気で怒っているのかいまいち伝わってこない。
「そんな事ゆーてる場合か!だいたい警察が間に合わへんのやったら、お前みたいな普通のガキが間に合うワケないやないか。超能力とかでピューッと飛んで行けたらどうか知らんけど。いや、たとえ間に合うても、お前に何ができる?…それこそ」
 と、耕介はチラリと夕美を見た。「弾丸も跳ね返す力でもあったら別やけど…ぴゅーっと飛んで。」

 言われた夕美は「ちょっと待ちぃな」と耕介の肩をぐい、とつかんで自分の方を向かせた。
「わ。こらおまえ、親になんちうマネを。だいたい、俺はなんも言うてへんがな。」
「…ここでハッキリさしときたいんやけどな……お父ちゃんはあたしの事が心配にはならんのか?ケガしたらとか、いや、それ以前に、この前みたいな連中が相手やったら今度こそ殺されるかも知れへん…とか考えへんのか! 愛はないんか、愛は!」

「なにをクッサい台詞言うとんねん。いつもいつも俺の愛を拒んでるんは夕美やないか!」
「先生、話題が噛み合ってません」と、ほづみ。
「あ、そうか。ほなな、この際やから報告しとこ」と夕美に向き直った。「報告?」
「いやぁ、この前のことで俺ら、むしろ自信がついてん。薬の作り方は間違うてなかった、てな。夕美のおかげで、かなりちゃんとした用量・用法が判った。こうなると“スイッチ薬”はもぉ、ちょっとした便利な道具と一緒や。それは感謝しとるでホンマ」
「ちょっと待ってぇや!…言うてもまだあたしかて数えるほどしか飲んでへんがな!そ、そや、いち、に、さん…よん。四回や!しかも結果は毎回むちゃくちゃやんか!!」

「いや、夕美ちゃん。テストとすればそれで充分なんだ。新型の飛行機を生み出すとき、実物を作ってから行うテストは安全性と実用性の確認が目的であって、飛べるかどうか…なんて段階はとっくに終わってる。そのかわり、設計段階で無数のシミュレーションと、模型では徹底的にテストを繰り返すけどね。」

「待ちぃな!あたしはその模型実験かいな!!」
 ほづみはニコリと微笑んだ。「まさか。偶然の事故で繰り上がったとはいえ、れっきとした本番だよ。」
「───よろこばれへんわ…どっちにしても、全然。」
「前にも言ったけど、夕美ちゃんがスイッチを口にしたのは本当に偶然だよ。それにそんな段階だって、とうの…遥かな昔に済んでいるんだよ」
「………?」

「あ。…と…ところで今回のコスやけどな、この前お前が消滅させてもたやろ。あれが唯一のパンツバージョンやったんや。せやからあとはヒラヒラかタイトか、とにかくミニスカかレオタードしかあらへんど。はっは〜、ざまぁ見ぃ!」そう云いながら、壊れかけで建て直し中の家のいったいどこに仕舞い込んであったのか、奥から何箱もの段ボールに納められた衣裳を出してきて「さあ、どれでも着てみぃ!」と毒づいた。

「げっっっっっ!? ま、前に車に積んでた分よりウントコ多いやないか!!」
「ふ。当たり前や。あれはモバイル・セレクションや。トータル・コレクションをなめるなよ。すべて愛しく可愛い娘のハレの舞台衣裳と思てのパーフェクト・コレクションや♪」

「どこがや、ウソツケ!」

 この親子漫才の間も亜郎は気が気でない。
 たしかに自分が行ったところで何が変わるわけでもない。むしろ面倒が増えるだけだろう。しかし、痛い目をしようと生命にかかわろうと、自身の眼で確かめない限りおさまりが着かない。この自分の奥の奥からこんこんと沸いてくるような衝動にはどうにも逆らえない。たとえアマチュアであろうとも、たしかに亜郎の魂は好奇心でできているジャーナリストのものだった。

「あのう、早く。早くしないとドロボーがぁあ」亜郎が地団駄をふみだした。

《ACT:83へ続く》

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