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2011年9月 9日 (金)

ACT:83/亜郎くん、焦りもピーク。

「夕美さん、もう待てません、僕はひとりでも行きます。」
「あっっ、あほ、あかんて」と夕美。「こんなことしてる場合とちゃうがな。…ええい、しゃあない」と段ボールの中からビニール袋に入ったワンセットを適当に掴み出すと、着替えるために耕介の横をすり抜けるようにして家の奥へ飛び込んだ。

「はっは!なんやかんや言うても自分からコスを持って行きよった♪さすが俺の娘や」
「いや、違うと思いますよ」と、ほづみ。

Scienagic083
 

「───なにが?」
「この前みたいにチカラが発動した場合、自前の服が消滅するのがイヤだからじゃないかな」

「げっっっっ!」
 あわてて後を追ったが、それを見越してか、すでに夕美は自分の部屋にこもって鍵を掛けていた。
 半壊状態の須藤家だが、唯一夕美の部屋だけは鍵の掛けられるドアと、まともな壁が残っているのである。
「うわあああ夕美、夕美っっ、待てっ。待ってくれ〜!お父ちゃんが悪かった、どれを持ってったんか知らんけど、どれもおんなじだけ大事なコレクションやねん、消滅確定な使い方だけは堪忍してくれぇえええええ」

 愛人から突然に別れを告げられて部屋の外へ放り出されたヒモのように、ドアに張り付いて懇願する耕介の鼻先でかちゃりと音がしたかと思うと、細く開けられたドアの間から覗いた夕美の目が、ジローリと耕介をねめあげた。

「ちょっとは懲りたか〜〜?」
 そして扉は開いた。すでに夕美は着替えてたが、着ていたのは耕介コレクションではなく、いかにもメイド・イン中国のノンメーカーっぽいジャージである。

「ほんまに…ここが山の上の一軒家でよかったわ。お父ちゃんみたいに賑やかなオッサンを街なかなんかで飼うとったら、近所に気ぃ遣うて神経参ってまうで。───ゆうとくけどな、こんなジャージかて、消えてもかまへん服とはちゃうねんで。───あ」
 ぽん、と夕美は手を打った。
「そうやん。それやったら最初から変身していったらええんとちゃうん。そやろ?、どうせ恥ずかしいコスプレせんならんのは一緒やねんし…ちうことでお父ちゃん、変身のやり方を教えてぇな」

「え、それはわからへん。」

 耕介は夕美の愚痴から独り言へ、そして解決策へと飛躍した不思議な三段論法をぽかんと聴いていたが、返事だけはあっけらかんと即答した。
「…は?なんやて?」
「俺はもちろん、さすがのほづみ君も、お前の変身のやり方まではわからへん。そもそも、お前の変身は想定外の能力なんや。せやからこの前の変身かて、実際にそのプロセス見たのも体験したのも夕美、お前だけやさかい。せやから検証のしようもないんや。幸か不幸か、テレビに写っとった画像も、俺らがこの目で見たんと似たり寄ったりの映り方やったしな」

 たしかに、マスコミは芸能ニュースの取材かと見紛うほどに、ズラリとレンズの砲列を並べていたが、一台としてちゃんと変身後の夕美の撮影に成功していたカメラはなかった。
 もっとも、ギンギラの逆光だの、もうもうたる砂ボコリだの、予想外の出現位置だの…と理由はいろいろあるが、撮影条件の悪さによる撮り損ないだけでなく、多少なりともましな映像には、みな国家レベルで必死の揉み消しが働いたせいでもある。

 といっても、そこまでして消したかったのは夕美の映像ではなかった。
 それどころか、派手なコスチュームの超能力ヒロインの登場など、政府の秘中の秘、APの公共の電波への露出に比べればもう、どうでもよかった。

 APすなわちSPEQTADD(スペックタッド)管理下の“国家機密クラスの極秘超兵器”アーマード・プロテクターは、存在そのものが日米同盟どころかASEANだの太平洋武器開発制限条約だの、意味不明な略号で呼ばれる国際条約にいろいろと触れるのである。

 だからAPが世間の目に堂々と触れたことが、どれほど関係者の寿命を縮めることになったのか、お分かり頂けたと思う。
 しかしそれも当局の必死の努力も虚しく、よりによってパイロット本人が直接、テレビの報道番組に出たことで水の泡になってしまった。

 もっとも変身前の夕美ならば、戦隊もののコスプレ越しではあるが、特殊なポジションにいたカメラが鮮明に捉えていた。
 他でもない、APパイロット八坂アカネが装着していたヘルメットに取り付けられていたカメラである。が、もちろんその映像を握っているのは天野二佐であり、彼以外はその映像の存在すら知らない。

 もちろん、耕介たちも例外ではない。

「───せやからなんとも言えんわ。俺らかて、お前がユーミンの格好に変身してたやなんて全然知らんかったもん。遠目でしかお前を見てへんから、お前の話を聴いて初めて知ったんや。再会したときは変身が解けてスッポンポンやったしな……ぁっ!」
 そこまで言って耕介は、しまった、と思った。いわずもがなの事までついうっかりと口を滑らせた事に気づいた。が、既に手遅れだ。反射的に殴られる、と思って身構えた。が、さすがに夕美も済んだことで手を出したりはしなかった。

 とはいえ、思い出したくないことを思い出すはめになっては、夕美は感情的にならざるを得ない。

「なっっ、なんでや!今さっき、もうみんな解った…てゆうとったやないか!」
「そ、そ、そら、原理とか理論レベルでの、クスリの効き方を調整する話や。しかしどうやったら、それができるんかが分からへん。」
「なぁんやそれ!! 全然あかんやん」

「おぅ、お前、えらそうに言うけどな、言うたらな、庭先に異星人が乗り棄ててった宇宙船がドンとあるようなもんなんやで。ワープ航法があることも、その船がそれで飛べることも判っとるのに、使い方が解らんから危のぅてよぉ触らん、ちうワケや」
「どんな例えやソレ」
「いや、むしろ俺らかて、どんな条件の時に、お前の何がどないなったんで変身できたんか…が知りたいんや。ええ機会や。ほれ、思い出してみぃ」
「思い出すも何も、崩れてくビルの瓦礫と一緒に思いっきり落ちながら、もぉあかん、けど死にたないと心底思ただけや。ほんなら全身光に包まれて…あとは分からん」

「う〜ん」やっぱりそうか、と思いつつ耕介はうなった。

 耕介とほづみのふたりだけでコッソリ実験していた時は、発動する超能力のポテンシャルは口にするスイッチ薬の量に比例してスライダー的に上がるものだと思っていたが、夕美の場合はずいぶん違う。

 まるで携帯電話のパケット通信料の“なんとかホーダイ”みたいに、一定量からいきなりガッと次のステージに上がるらしいのだ。

 たしかに最初の段階はスイッチ薬を飲むことで発動する…でもその次は追加投薬などしていないにも関わらず、しかも完全にレベルごとモードが切り替わっている。
 いわゆる“火事場のくそぢから”に似た原理によるものだろうが、そんなものをアテにする訳にはいかない。

 家事場の…のパターンは、SFなら小説でもコミックでも語り尽くされた“定番”である。しかしそうなら、あまりにも危うい。そこまでの一か八かの緊急で危機的な状態にまで追い込まれたとして、もし万が一発動しなかったら今度こそ生命はない。

 逆に言えば、危険な環境に慣れてしまったら発動しないかもしれない。逆に被害妄想からの暴発もあり得るからだ。
(───まだそんな不安定要素が残ってたんか)
 おちゃらけがデフォルトの耕介だが、さすがにここばかりは真顔だった。

 たしかに、夕美が見せた能力───サイコキネシス(念力)は、ラインナップとしては予想でき、また予定されていた内容ではあるが、分子レベルで物質を分解したり再構成したりするなど、その結果は、オプションと呼ぶにはどれもがケタ違いのパワーだった。

 いまだ人類がなしえない低温核融合以上の事を、ちょっとリキんだだけでやってのけるのだから、もう、神懸かっているとしか言いようがない。

 ほかにどんな“超” 能力が発揮できるにせよ、あれほどのパワーを元にしているのであれば、今後夕美が発揮しうるたいていのジャンルの超能力は、とんでもないスケールまで発展できる可能性を秘めているに違いない。

 スイッチ薬は、その名の通り脳内の使われていない領域に“スイッチを入れる”ためのトリガーとしての役目を狙って開発したものだ。
 しかしそのスイッチは二段階、もしかしたらもっと上の段階すらある可能性が出てきたのだ。
 だが、二段階目のスイッチは薬によるものではなく、夕美の場合はもともと持っていた“隠しスイッチ”のフタが、スイッチ薬によって開けられたというべきだろう。

「夕美さぁあああああああんんんん」
 亜郎は我慢の限界だった。
 まるで、食事の用意をほっぽらかして近所のおばちゃんと延々だべっている母親に抗議する小学生のようなジレ方だった。


《ACT:84へ続く》

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