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2011年10月10日 (月)

ACT:84/夜の学校はデンジャラスやで

 誰しも一度くらいは夜の学校に足を踏み入れたことがあるだろう。
 クラブ活動や補習や忘れ物や、学園祭の準備とか、その理由はともかくも。

 昼間、騒々しい活気に満ちているからか、その分対照的にひと気のない建物のなんと寂しげな事か。
 大学などと違って、もともと夜間の使用を想定していない設計思想だから、照明というより街灯のようなションボリした電灯だし、それとても最小限の本数しか使われていない。いわば防犯対策のために仕方なく付けているといった体裁だ。
 

 半端で薄暗い灯りはかえって闇を不気味に際立たせ、よりいっそうの寂漠感と妖気さえも演出する。
 むしろ幽霊オバケ魑魅魍魎の類のためにわざわざ住み処を提供しているようなものだ。

 もちろん誰ひとりいないという訳ではない。

 常駐しているのは、お世辞にも若くはない、それもどう見ても格闘技や護身術には無縁そうな警備員、宿直の教員。そしてそんな学校の今夜の特別ゲストは、亜郎の先輩にしてメディア部の副部長・平賀と、彼が部室に仕掛けたカメラに写っていた人影の主。
 そしてその主は二人組で、いずれもまだメディア部の部室で堂々と探し物をしていた。

「───ああ、これも違う。もう飽き飽きだぜ。くそ、昔はよかったな」小声ではあるが確かに日本語の愚痴だった。
「なにが」
「ビデオテープはかさばるが、ラベルなり何なりの手掛かりがあったし、いざとなったら丸ごと持ってくって手もあった…ところがだ、ああああ」
 ───と、マウスを投げ出し椅子を蹴る様にして席を立った。背が高い。

 それまで背をかがめるようにしてパソコンのモニターにかじりついていたが、我慢の限界が来たらしい。
「いったいこの動画ファイル、どれだけあるんだ!? しかも外付けのハードディスクが1ダースもある。そのうちどのハードなのか、それとも棚に並んでたり机に積んである皿の中にあるのかも見当がつかん!!」
 丸ごと持ってこうにも、部屋にある棚という棚は機材と皿───DVDで埋まっていたものだから、どうしようもなかった。

「イリヤを連れてくりゃよかったなあ。ハッキングが趣味のあいつならアッという間に見つけただろう」

「本当だぜ。コンピューター解析なんて専門外の俺たちじゃ時間ばっかり食って…これじゃ朝までかかっちまうよ」
「室長…いや、副長に連絡入れとくか?」
「…だな。サボってると思われるのもシャクだしな」
 ふたたびパソコン内の膨大な動画ファイルに立ち向かう男の横で、背の高いは携帯電話を取り出した。

「あ、もしもし。えーと、アルファ3からガンマ1へ。感度よろしいか」
 だが相手の返答がないのでもう一度「えー、アルファ3…」と繰り返しかけると、目当ての“副長”ではなく、年配の女性らしき声が返事をした。

「なんやー、誰かと思たら、ひであきかいな!?」
「──────う───ぅゑっっっ!?。おか、おかあちゃん?」

Scienagic085

「あるふぁるふぁ、ガンモてなんや。ええ歳して電話なんかでなにホタエてんねん、アホかいな。お母ちゃんかてな、忙しいんや。今かて、向かいの小倉さんが来週町内会でしはるミゾ掃除の事で来はってやな、そらもぉべらべらべらべら───」

 “ひであき”氏の多忙なはずの母親は、その後たっぷり20分は電話を切らせてくれず、彼もひととおり老母の健康を気遣った後、ようやく電話を折りたたんで、大きくため息をつくことができた。

「───お疲れ様、東大寺さん。…やっぱりプライベート用と公務用の電話とは分けといた方がいいですよ。前もどっか変なとこに間違い電話したでしょう」
「あ〜、そやねん…ってオマエ、なんでそれ知っとんねん!?」
 まるでお笑いのコンビのような二人だが、亜郎が見たらあっと驚いたはずだ。
 以前、夕美の帰り道を尾けていた亜郎の前に割り込んできて、二人して同じように不器用に夕美を尾行していた二人組だったからだ。
 あるいは、監視カメラの動画を見ていれば気づいたかもしれないが、どうせ携帯の画面サイズではそこまで見分けられるはずもなく。

 彼らが何者かはともかく、少なくとも武器を取って人の命をどうこうしようというような大それた連中ではなさそうだ。

 実際この調子では、こそ泥の才能さえなさそうだ。

 お陰で、というか、夕美たちがあれほど“出撃”に手間取ったにも関わらず、“間に合った”のである。

 もちろん、あのあとすんなりと“出撃”できたわけではない。
 しかし、夕美だけは須藤家から学校までは、現時点の人類最速で移動できた。

 瞬間移動───テレポートを試したのである。


《ACT:85へ続く》

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