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2012年1月 6日 (金)

ACT:85/なんでもかんでもぶっつけ本番て。

Scienagic085_2

「夕美ちゃん。この際だ。テレポート…瞬間移動を試してみるかい」

 ほづみの唐突な提案に、夕美や亜郎はもちろんさすがに耕介もこれには面を食らった。
「ほづみ君、なんぼなんでもそら無茶とちゃうか」

「ほ、ほんまや。瞬間⋯移動やと!? あっそや、そやかてほづみ君、あんたこの前、瞬間移動は危険やて言うてなかったか?」
「確かに。でも、あの時はまだ夕美ちゃんはまったくのサイエナジックの初心者だったからね」
「い、今かて初心者やわ!」
  

 

「でももうノーマルの飛び方なら知ってるじゃないか」
「ちょ、ちょっと待ちぃな!ノーマルてなんやねん。そ、それも、ひぃ、ふう、みぃ⋯た、たったの三回や!! 飛行時間にしたら一時間あれへんがな!めっちゃシロウトやないか!!」

「大丈夫さ。夕美ちゃん、勘が良いもの」
 しれっと返すほづみの口調は、初めて補助輪無しの自転車に挑む子供を励ますよりも素っ気なく、夕美はハハハと乾いた笑いを漏らすしかなかった。

「───そぉいう問題か!?」
 でも、突っ込みは忘れない遺伝子構造の浪花っ娘だ。もっとも───
「うん。サイエナジックってのはある意味、使い手との相性や天性の素質に左右されるのは否めないんだ…まぁ才能と言い換えてもいい」

 ───と、無感動属性・異性人系青年も負けていないが。

「でも今回クリアすべき条件はひとつだけ。要するに目的地を明確にイメージして特定できる目印があればいいんだ。今から伝える術式が、それを目当てに検索し行き先を見つけ出す…ただし、世界中でそれひとつしかない目印でないとだめだ。似た条件しかなければ、条件を加えて絞り込む必要がある」

「ほづみ君が何言うてんのかさっぱり分からへんし、ややこしい理屈はどーでもええけど、要するに、今のあたしやったらやれるねんな?」
 ほづみは、いつものように微笑み、うん、とうなづく。

「よっしゃ。やったる。」
「うそ」あっさり決心した夕美にむしろ亜郎と耕助の方が驚いた。

「じゃ。学校で周りに障害物がなく、もちろん人目の無いところで、なにか記憶に残る、でも他にふたつとないほど印象的な目印はあるかい?」
「え〜? う〜ん……そんな変わったモンて…あ」夕美の脳裏に浮かんだのは、屋上。「あるわ」

 いつも鈴たちとランチを食べているあの場所。

 その腰掛ける所に、剥がれかけたグリーンの防水塗装があった。誰かが故意に剥がしたのか自然にそうなったのかは判らないが、その剥がれ具合が、ちょうどパンダがこちらを向いて笑っているように見えるのである。

「おあつらえむきだ。じゃあ、あとはスイッチ薬を飲んで、夕美ちゃんがその場所にいて、いつも見ている状態を思い浮かべて脳内でシミュレーションするだけだよ

その模様を実際に見つめているつもりになるだけだ」

「え⋯それだけ?」「そう」
「そんなんで瞬間移動できるんやったら、想い出にふけったりして、下手に場所を思い浮かべただけでそこへ跳んで行ってまうんとちゃうん!?」

「そうならないために術式⋯決まり事が細かく設定されているんだ。記憶が曖昧で絞り込みが不十分だったり、“そこへ行きたい”という欲求の集中度が足りなければ発動しない。いわば安全弁になってる」

 亜郎はほづみが瞬間移動、とクチにした時「しゅ…」と、ガスが抜けたような音を発したままフリーズしたようにその後のやり取りをぼんやりと聴いていた。

 いつまで経っても、どれだけ待っても須藤宅を出るに出られず、焦りもピークに達している亜郎だったが、ほづみが展開するあまりにも現実離れしたレクチャーの内容に、しばし状況を忘れて聴き入ってしまっていた。
(しゅんか…ん…移動だって…?たった一本の薬で、そんな事まで可能だってのか)

 彼自身はSFアニメのフリークだから、常識を越えた突拍子もない展開だろうが奇妙奇天烈な存在だろうが、何事も有り得ない事ではない…と頭のどこかでは理解し容認している。

 だがそれはあくまで皮の感覚的な部分であって、骨の部分で自然に受け入れ納得できているかといえば、それは違った。

 違和感などいずれは慣れれば消えるのだろうが、いまはまだ16歳は16歳なりの常識に捕われざるをえない。
 人は機械の助けなく肉体だけでは空を飛べないし、いくら鍛えようとも、肉体は弾丸を跳ね返せるようにはならない。

 もちろん、たとえ10mと言えども、経過時間を無視して空間を一瞬にして飛び越えるなどはありえないのだ。

 だが、そんな人類史上に数千年も君臨した常識を、このほづみという自分より少し年上の青年は、つぎつぎとくつがえして行くのである。

 そんなほづみの奇妙な行動が気になりだしてからというもの、この男の正体を知りたいという欲求が強まっている事も勿論だが、それ以上に彼の知識の出どころの方がよほど謎めいている。

 空想をたくましくすればするほどに、ほづみに対して底知れぬ畏怖とも、恐怖とも取れる複雑な感情が沸いて来る。

 その気になれば何冊も本が書けるくらい興味深いネタに満ちている。だが夕美を裏切らぬため、この事は誰にも告げることはできないのだ。
 しかし、ジャーナリストとしては失格でも、同時に、このとてつもない秘密を須藤家と共有できることに悦びを感じている事も否めない。

 あいにく社会的には亜郎は学生で、ジャーナリストの端くれどころかタマゴですらないが。

 それでも亜郎は思う。こっそり異星人だか魔物だかと知己を得た一般的地球人の幸運とは、こんなものなのだろうか、と。

「ほんで?」

 夕美の準備と覚悟が整った。ジャージ姿ではあったが、一応バンダナで頭を包み、マスクで顔も隠した。
 もしも通信用のトランシーバーとヘッドセットを着けてなかったら、どう見ても大掃除のいでたち以外の何者でもなく、耕介や亜郎の特撮&コスプレファン心理をがっかりさせた。

 もっとも、ジャージ姿は別な意味でのマニアならそそられるものがあるのかも解らないが。

「そ…その、テレポートの呪文とやらを教えてぇな」とほづみに向かう。前に念動力で初飛行した時の準備作業でその知識を伝授された時のように、またおでこをごつん、と合わせる必要があるかと思ったからだ。

「あ、それなら」

 ほづみは、実はあの時に、だいたいひととおりの“呪文”を夕美ちゃんに送り込んでるんだよ、と答えた。
「だからテレポーテーションたって、そんな構えるほどの難しいものじゃないんだよ」

「あ、そう」あのちょっと照れ臭い行為を追体験しそこなって、少し夕美は残念なような気がし、“前のあの時”を知らない亜郎は少なからず心が騒いだ。
「あの場所を正確に思い浮かべたらええねんね?」「うん。そして一歩踏み出す」

「えーと」

 一瞬だった。夕美が右脚を前へ出すと同時に語尾の「と」が掻き消えたと思うと、まるで物干しに掛けていた洗濯物が風に揺られて落ちたかのように、その場に夕美の着ていた服だけがぱさり、と落ちた。

 そう、バンダナも上着も下着も全部。

《ACT:86へ続く》

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