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2012年1月24日 (火)

ACT:86/また、すっぽんぽんかいっっ!

 ばさり。今まで夕美が立っていた場所に、彼女が身につけていたもの全部が抜け殻のように“落ち”た。トレードマークのヘアバンド代わりのロングリボンも、である。

「あっ」という、男どもの声が出たのはしばらく経ってからだった。それほど唐突だった。

「ゆ、ゆ、ゆ夕美さんは!?」

「…ほんまに消えよった…いや、これがテレポートか…理屈では解ってたつもりでもやっぱりたまげるなぁ」

「無事…!? 無事なんですか!?」「まて、さわるな!危険だ」
  
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 ほづみの制止で思わず服に手を伸ばしかけた亜郎がビクリ、と凝固した。

「ほんまや、亜郎おまえ今絶対エッチな事考えてるやろ」
「えっっっっ、ぼ、僕はなにも」
「先生も!服はそのままに」
「えっっっ。俺かてなにもヤマしいことは」

「よぉ〜く考えてくださいよ。事が解決して夕美ちゃんが帰って来て、脱いだ…いや脱げた服が同じ場所に無かったら?万一にも何らかの変化でも認められたら、どんな事になるか───」
 一瞬、互いに顔を見合わせて「うっっっっっっっっ」と耕介も亜郎もうめいた。

 即座に黄色のビニールテープで服の周りを囲って、KeepOut、いかにも“さわってませんよ”状態を確保すると、急ぎ三人はクルマで夕美の後を追った。

 少し時間を戻すと。

「───っと」

 一歩前は修理したばかりの真新しいフローリングのリビングだったが、踏み出したとたん、あたりは真っ暗になった。同時に夕美は足の裏のざらついた冷たい感触に驚き、足元を見てもう一度驚いた。
 突然の暗さに眼が慣れない中でも、裸足どころか、自分の白い向こうズネまでもが視界に入ったからだ。

「ゑ」

 踏み出した勢いで二歩三歩とたたらを踏むと、ひやりとした夜風が直接、全身の肌に当たったことで確信した。ジャージを、いや下着すら着けていない。

「うあ!!」思わず腕組みポーズで胸を隠しながらしゃがみ込むが、勿論“尻隠さず”である。
(ま…また…すっぽんぽんか!! まいったな、変身さえせぇへんかったら服の消滅はないと思てたのに…)

 幸い?街の中心から外れて賑やかな灯も届かず、非常灯以外の灯りもない学校の屋上では、ほぼ真っ暗だし、誰に見られるわけではないだろうが、裸で露天にいる不安は動物的本能から来るものだからたまったものではない。

 肩をすくめ、まるで昔の漫画のコソ泥が忍び寄る時のようにつま先の小走りで、屋上の角にある階段室へと駆けた。

 当然カギが掛かっていたが、夕美がノブを軽く握ってちょっと力を込める“そぶり”をするだけで、真鍮製と思われるドアノブは、粘土細工のようにもぎとれた。

(消えても諦めのつく服にしといて正解やったわ。せやけど困ったな…、それこそジャージは予備もいま、家やがな!)
 真っ暗な階段を裸足でそろりそろりと下りながら、まさか自分が服だけ残して瞬間移動をしたとは、思いもしなかった。
 
 


 
 
 メディア部の部室へ行く前にまず、着るものの確保が必要になってしまった事に、男どもを怨まずにいられない気分だった。

 化学実験室の外にあった来客用のスリッパを拝借し、中にあった暗幕を「すんません」と心の中で唱えてひきちぎって頂戴した。いったい洗った事があるのか、ひどくホコリ臭いが贅沢は言えない。
 一部を裂いて帯にする。顔を隠すためにフード状すると、安物の魔法使いの出来上がりだ。

 ビニールの安物スリッパがぺたぺた、とせわしない足音を響かせるが、気にしていられない。
 気にしていられないが、今の自分のいでたちを客観的に思い浮かべたら悲鳴を上げたくなる。

 素っ裸でスリッパ履き、しかも暗幕のマントをひるがえして事件現場へ駆け付ける正義の味方なんてみじめすぎる。

 なんでこんなにしてまで…と思うが、ここまで来たからにはそれを思い悩んでいても仕方ない。
 反対に、いっそあんな格好でも、変身してしまえばこの状況よりはマシでは、と思うが、いかんせん、肝心のやり方が不明のままだ。

 周りの闇以上にダークな気分だったが、ふと前を見ると明かりが見える。
 今この時間に人がいる教室はない。つまり、メディア部の部室に着いたのだ。
 驚いたことに犯人はまだ居るのだ。
 夕美たちがあんなにもたもたウダウダしていたにも関わらず。

(せやけど…)
 これで、こんな格好で“悪党共、御用だ”と踏み込むのか?
(ありえへん)
 いまの夕美の頭の中には、もう強盗とかどっかの国のスパイだとかを相手にする恐怖などとうに失せていた。

 とはいえ。
「はあああ…」夕美はただただ、情けなかった。同時に怒りも沸いて来た。何が哀しくてこんな時間に華の乙女がすっぽんぽんの身体の上から重くて薄汚い暗幕をまとって、ぽつねんと夜の学校の物陰に身を潜めていなければならないのか。

 さいわい春になってるし建物の中なので、こんな格好でも寒さに震える事はなさそうだが。

 しかしあらためて考えると、いま、部室の中にいるクセモノが、夕美が写っている動画だか写真だかを盗もうなんて了見を起こしたせいで、ジャージはなくすわ、こんな時間に華の乙女がすっぽんぽんの身体の上から重くて薄汚い暗幕をまとって、ぽつねんと夜の学校に居る羽目になったのである。

 夕美はコスプレはもちろん、学芸会など特殊なイベントがあった場合でも制服以外の衣装など身につけた事がなかった。
 しかしシロウト目には一見、なりふりなど構っていないかのように見える、いわゆるコスプレイヤーにしたって一種の主張であるからには、いくらハタ目に異様に見えようとも、その見てくれには“程度”というものがあるだろう。

 まだこれなら同じ恥ずかしい“衣装”だとしても、例のアニメコスプレのほうがずっとましだ、と夕美は思った。

 追っつけ、耕介たちも来るだろう。

《ACT:87へ続く》

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