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2016年2月15日 (月)

ACT:89/真っ向対決!

 ───変身してみて、気がついた。

 このあと、何をどうしたらいいのか、全く考えていなかったのである。
 つまりは目の前の“賊”を捕まえればいいのだ。でも、どうやって?

 夕美はユーミンに変身した。弾丸を跳ね返し、身ひとつで空を駆ける、マンガやアニメの設定のままの“超人”に。それどころか“原作”にない瞬間移動などの能力まで持っているのだが、どれもまだコントロールができず、使い方も分かってない。

「だ、誰だお前!? なんだそのカッコ…あっ、東大寺さん!」

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 またも夕美の背後から声がした。まばゆい光と物音に、もう一人の男…鴨川がメディア部の部室から出てきたのだった。

(あっ、くっそぅ、そういえば犯人は二人組やった!)と夕美は舌打ちしたものの、変身してしまえばもうこっちのものだ。ひとり増えたところで驚異でもなんでもない、と夕美は思った。
 さっきまで、このまえ銃弾を跳ね返せたのは偶然にすぎないと思って怯えていたはずが、今では“矢でも鉄砲でも持って来やがれ”な程に気が大きくなっていた。
 この辺の心理はカンフー映画を観た後、なぜか誰にでも勝てそうな気になるのに酷似しているのかも知れない。自然、態度もでかくなる。

「あんたたち、なにものなの?」

 とはいえ、変身したからには、正体を知られたくない。それこそ個人を特定するのにあまりにも特徴的な大阪弁だけは使うのは避けなければならない。夕美は単語ごとに意識して“東京弁”のイントネーションでしゃべった。

「き、気ぃつけろ!そいつ、何か閃光弾みたいな仕掛けをもっとるぞ!俺はそれで眼ぇやられて見えんのやっ!!」
 大阪弁を隠す夕美とは対照的に、一時的に目が見えずパニクって大阪弁丸出しになっている東大寺は、背中を壁につけ、立ち上がってなんとか壁づたいで相棒の鴨川の声のした方へジリジリと撤退しようとしていた。
「えっ、閃光弾!? このコスプレ女が!?」
「なに…コスプレ女やと!?」東大寺はあらためて夕美をよく観ようと眼を凝らすが、まだ視界の大半は黒い残像が邪魔をしていて、ものがよく見えない。
「そうです東大寺さん、この女、スクランブル・ユーミンのコスプレしてるんですよ!」
 「げっ…。つ、つまり、こいつが」と言いつつも東大寺の顔は完全にあさっての方向を向いていたので鴨川が「いや、こっちです」と東大寺の肩をつかんで方向を修正した。
「そ…そのようです、例のターゲットでしょうね…」
「か、カメラは!? 携帯は?」
「全部カバンの中です」「そのカバンは」「部室の中です、そこの。」

 どうやら2人目の男も武器は持っていないようだ…と夕美は判断した。とはいえ、持っていたとしても一般的な武器では今の夕美には手出しできない。

 しかし。それは夕美も同じである。

 ぶあつい鉄板をアルミホイルのようにくしゃくしゃに丸められて銃弾を跳ね返せても、空を飛べても、今の夕美がどれほど不思議なパワーを持ってたところで、コソ泥を傷つけずに捕まえる方法が思いつかないのである。
 とにかくパワーがでかすぎるのだ。例えるなら、皿の煮豆ひとつをつまむのに必要なのはパワーローダーではないし、電球一個を灯すのに原子力発電所を持ってきても制御の方法がなければ意味がない。

 たぶん、力技で普通の人間に負ける事はない。この前は無意識とはいえ、悪党どもをはじき飛ばすだけで済んだ。しかしヘタすれば逆に相手を一撃でコナゴナの挽き肉にしてしまう可能性さえあったのだ。もちろん殺されるのはまっぴらだが、殺すのも御免こうむる。

 夕美は今こそアドバイスが欲しいと思った。ほづみのアドバイスが。
 しかし頼みの綱のトランシーバーは家に残してきてしまった。いま赤いバイザーを支えているヘッドホンふうのパーツはカタチだけ、いうなればヘアバンドに過ぎない。飾りのネコ耳となんら変わらないのだ。
 まさに目の前の男が言うように、単なるコスプレだ。
(いや待て。考えるんや…変身できたんや。テレパシーとか何か気の利いた技は使えんのか?───おおい。おーい。ほづみ君やーい。)
 心というか、頭の中で唱えてみた。やり方なんかもちろん知らない。
(もしもーし。ほづみ君、応答せよ、ほづみ君)
 …と唱えたところで、夕美の脳裏に突如浮かんだのは低年齢層向けの少女マンガのワンシーンだった。
(あれなにこのビジュアル…うわちょっと待て、あかん。私にこれはキツい。目的がどうあれ、あまりに恥ずかしすぎる。)

《えっ…夕美ちゃん!?》
「はっ、はいぃいい?」夕美は突然耳元に聴こえたほづみの声に思わず大声で応えてしまった。

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 すわ、他にも誰かいるのか!? と“二人組の悪党”が面を喰らって周りを見回す。

 夕美はダミーの筈のレシーバーに手を当て、電話で内緒話をするように小声でほづみに話しかけた。
(ほ、ほづみ君なんか!? 一体どないなってんねん、このヘッドホンはダミーちゃうかったんか!?)
《良かった!やっと通じた…レシーバーということは夕美ちゃん、今、変身してるのか》
(そ、そう。どういうこっちゃ。なんでほづみ君と通じてるん!?)

「おいっ、お前!誰と喋ってるんだ!?」
 奇妙な話だが、これが強盗のセリフなら拳銃やナイフを構えて威嚇している構図なのだが、一時的に目が見えなくなっている東大寺も鴨川も武器は持っていない。
 しかも実を言えば二人とも空手やボクシングなど、徒手空拳で殺傷能力のある武道とは無縁なので、実際のところはまったくオドシの意味を成していなかった。
 ましてアニメのコスプレをしている女の前で、なすすべもなく壁を背に立ちつくしてるのである。

(…まあええわ、あのな、いま目の前に犯人がおるねんけど、どないしたらええん?私、こいつらを気絶させるだけっちうような器用なマネはよぉせんで?)
《たしかに戦闘時の“手加減”なんて想定外だった。僕らももうすぐそっちへ着く。そうだな、逃げそうなら脚を狙って物でも投げつけろ。》
(えええ!? 無茶言いな、今の私がそんなことしたら当たったトコの骨とか折ってしまうかも知れへんやんか!)
《大丈夫だよ、脚の骨折くらいじゃ死んだりしない。》

「え。脚を折れ!?」
 思わず声に出してしまった。だがかえってこれが効果的だった。

「えっ…!」もともと腕力に自信がない二人の男は逆にこの言葉にビビった。

《ACT:90へ続く》

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