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2016年4月17日 (日)

ACT:90『スクランブル・ユーミン、だよ。』

(と、東大寺さん!!)
(…名前で呼ぶな!お前、さっきから連呼しすぎやろ!オレらの身元が割れるやないかっ)
 “謎のコスプレ女”はこれまた謎の誰かと、ケータイか何かで自分たちの脚をヘシ折れとの物騒な相談中である。しかも東大寺はコスプレ女が放った閃光に視力を奪われて思うように動けず、相棒の鴨川もそれを見棄てて逃げられるほどの冷徹さもなく、また同時にたとえ常態だったとしてもお世辞にも戦闘向きでない二人は、結局のところ、その場に突っ立っている以外になすすべがなかった。

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 だがコスプレ女───スクランブル・ユーミンに変身している夕美も、手出しのしようがないという点では同じで、いまはテレパシーを応用した通信で現場に接近中のほづみと相談中だった。
 犯罪者側とそれをとがめる側がボサーッと夜中の学校の廊下でなすすべなく立ちつくしているという奇妙な光景だった。

(あいつ、脚を折るとかなんとか…やっぱし、俺らのですかね?)
 東大寺は呆れて鴨川の顔の方を向いた。まだ眩んでいる目を閉じたままだったが。
(…だいぶ目がマシになってきた。もうちょっと見えるようになったら一目散に逃げる)
(え───逃げるんですか)
(なっ。おまえ、アレと戦うつもりか。アホちゃうか)
(たしかに得体は知れませんし、東大じ…いや、あなたは今はまだ見えないんでしょうが、見た目はきゃしゃな女の子ですよ。顔は半分、真っ赤なバイザーで隠れてるけど、たぶん可愛い。いや、それもかなり可愛い。)
(…え。そんなに!? いや、顔の作りの話ちゃうぞ)
(ですからぁ、あいつ、スクランブル・ユーミンの格好してるんですってば。これで実は男の娘でした…とかなら厭すぎますよ俺!!ハイレグレオタードの男子なんて脳が腐っても考えたくない!!)
(ぐっ…ほんならお前、よしんばほんまに女の子やとして、お前はアレをどうする気なんや)
(つかまえて縛り上げるとかして、僕らの仕事が済むまで大人しくして貰うつもりですが、なにか?)
(いや…おまえ。解ってへんのかも知れんが、立派な犯罪やど、それ)
(いやいや、それをいうなら仮にも公務員ですよ、僕ら。それが任務とはいえ、夜中の学校へ忍び込んで部室にある資料やデータを盗むのは犯罪じゃないんですか?)
(いやいやいや、そこまで話戻してどうする、それ以前にお前は解らんのか、どんな格好をしてるにせよ、常軌を逸しとる!さっきは閃光弾とは言うたが、違う。あいつの着てたモンが光の粒になって消えたんや。それに俺の目、あいつの身体が強烈に光ったんを見たからこうなったんやど!?)
(え。ちょっと待ってくださいよ、いったいどんな神々しいものを見───)

「ちょっと、ねえ。お取り込み中、悪いけどね。そもそもあんたたち、何者?」」
 ヒソヒソ話に夢中になってる間に、いつのまにか相談を終えたらしい夕美が二人のすぐ目の前まで近寄っていた。

「「ほっっっ…ほわぁあああああっっっっっ」」「わっ」二人の男のハモり絶叫に思わず夕美も驚いてのけぞった。

「お、おおお、おま、お前こそ何者なんだ!」
「ちょっと待ちなさいよ。どあつ…いや、盗っ人猛々しいとはあんたらの事よね?私は見たとおりの正義の味方。通りすがりにたまたま見かけた泥棒さんを見逃せなくて参上したのよ。」
 夕美は自分でも可笑しくなるくらいにスラスラと東京弁ふうな台詞が出てきた。自分にこんな才能、いや芸が備わっていたとは。

 しかし東大寺が異論を唱える。「…待ったらんかい。いま俺は見えへんが、お前、コスプレしとるんやろ?通りすがりて、そんな格好でどないしたら“通りすがれ”るんや!!」
「うぐ」確かに普段の夕美なら絶対にヒトマエでこんな格好はできない。とたんに顔から火が出そうな程に恥ずかしくなったが、前にいる謎の泥棒にそのことを気取られるわけにはいかない。
「う、うるさいわねっ…とっ。とにかく。チカラづくで尋問するのは私の主義じゃないけど、その気になれば…とんでもないチカラが出せるんだからねっっ」
「ゑっ…」と、男たちの脳裏には事前情報として得ていた、タワークレーン倒壊事故の奇妙な顛末が思い起こされた。「…じゃ、じゃあ大量の鉄骨が消えたのはやっぱり人偽的な…!?」

「……知ってるんだ?」夕美は語尾の上がる標準語風のイントネーションで静かにつぶやいた。
  夕美としては(やっぱりこいつら、なんか知ってるな?)と思ったものの、ほづみが到着するまでは手の出しようもない事は変わらないので、考えあぐねた為の語調だったに過ぎないが、時ならぬ静かな夕美の物言いに二人の男は異様な迫力を感じ、ゴクリ、と生唾を呑み込みかけたものの、そのノドはとっくにカラカラに乾いていた。

 例のクレーン倒壊事故では、スクランブル・ユーミンの姿はどこのテレビ局もまともに撮影できていない。そして事件の特異性のためにいわゆる“当局”が隠しているのか、建築中のビルが崩壊した事は報じられたが、ビルひと棟分に相当する量の鉄骨がキレイに消滅した事までは報じられていない。
 ましてあの事件では夕美ではなく、一緒に人命救助に活躍した自衛軍の“新兵器”、AP…アーマードプロテクターと、それのパイロットである八坂アカネこそがマスコミのターゲットなのだ。
 画面のすみっこにU.M.A.(未確認生物)か心霊現象のようにしか映らなかった謎の人影のことを取り上げたのは、酔狂で有名なミステリー事象雑誌『アトランティス』くらいである。

 それなのに、そんなマトモな人間は見向きもしない酔狂な方の情報を信じた上に、どこから嗅ぎ付けたのか、クレーンに作業員が閉じ込められている事を通報した一般人が近隣の高校の学生で、しかもその人物が関わっているであろう部活の部室まで目星を付けて盗みに入ったのである。そんなピンポイント襲撃の目的など、裏返せばやはり謎の“もうひとりの人影”───夕美が写っている画像、動画のデータを盗りに来たに相違ないのだ。

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「───それで?どうなのよ」
「なっ。なにがだ」
「私の姿が写ってる動画や静画のデータはあったのかしら?」

(え・夕美ちゃん?)これを通信を通して聴いていたほづみの方が反応した。(やめろ夕美ちゃん、余計な挑発はするな!)
 レシーバーに殺到するほづみの忠告を夕美はふっふーん、と鼻であしらった。
 ほづみはまだ変身後の夕美の姿を見ていないし、その事は夕美もあえて言わなかった。ほづみだけではない。耕介もまだ知らない。もし、耕介が今の夕美のこの姿を知ればさぞや驚くだろう。いや、きっと腰を抜かすはずだ。
 そして同時に、信じようとしないかも知れない。事実、変身している当の夕美でさえそうだったのだから。

「!!!!!」ようやく東大寺の視力は物の判別が付くほどまで回復した。

 赤いバイザーを通しているとはいえ、“ユーミン”の顔はまったく見えないわけではない。今、東大寺と鴨川はメディア部の部室の灯りを背にしているので、さほど明るくはないが夕美の顔立ちくらいはなんとなく見て取れた。
「え?」そうして“今の夕美”の顔を見た東大寺の表情が変わった。夕美の予想通り、変身後の夕美の顔や姿は彼の予想したものとは“合致”しなかったのである。

「…お…お前…誰だ」
「見てわからないの?」夕美はニヤリと微笑んで言った。

「スクランブル・ユーミンだよ。」

《ACT:91へ続く》

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